大西ノリフミは、なぜGuitaristではなくてGuitar-manなのだろう?

昨今、気軽にアーティストと称しますが、正しくはレコーディング・アーティストと認識したいものです。 録音作品は、それぞれのジャンルで活動するアーティストたちが辿り着いた足跡でもあります。 若い才能に出会うのはいつの時代も楽しみですが、 皆さんもご存知のように、Jazzは簡単にデビューできないジャンルのひとつです。 若い才能の、キャリアに似合わぬテクニックに驚かされる魅力があっても、やはりJazzには「やつし感」が欲しくなる。だからどうしてもある一定以上の齢が要ります。 ビンテージというものでしょうか。

随分前から大阪に柔らかなテクニックの巧いギタリストがいる、という噂がありました。 この噂の主が大西ノリフミです。 「Guitar-man ~For Sentimental Reasons~ 」は、大西が58の齢にして初めてのリード作品です。 このCDを聞くと、大西のジェントル・ハンドが放つ柔らかな響きとミディアム・グルーヴに心身がゆっくりと解かされていくのが判ります。 メロディーを強く意識した抑制の利いた丁寧な演奏は、「形」に静かな気合が入っているせいでしょうか。 演奏とは、歌うこと、呼吸をすることだと改めて意識させてくれます。

収録された名曲の多くは、名画の中に流れたものです。名曲には、必ず「曲の情」があります。 大西の「音楽の情」と相応相伴してフレーズに集中する様は、言わば黙奏というのか自らの物語を辿るかのようにまるで祈りの印象を覚えます。

大西ら団塊の世代が多感な頃に聞いたこれらの名曲に、名画の物語と自分の物語を重ねあわせ、その時代に刻まれた思い出をたくさん熟成させてくれます。

「For Sentimental Reasons 」は、大西が10才のとき父親に買ってもらった安物のガットギターを届かぬ指で初めてコードを押え、12才の兄と一緒に歌った最初の曲だそうです。

大西ノリフミの情の深さは、押し付けがましいものではありません。 藤沢周平作品に合い通じるような、静かで深い情の味がします。 Jazzと藤沢周平、決して不似合いではないと思うのです。 Jazz侍、というよりはJazz浪人と言えましょうか。 この辺に、大西が自らをギターマンと名乗るそんな訳が潜んでいる気がします。 大西ノリフミ、遅れてやって来たGutitar-man 。 芳醇な香りが広がってきました。 さぁ飲み頃は今。ごゆっくりお楽しみ下さい。

Ken Watanabe